インタビュー

里崎慎さん インタビュー

2017.11.08

監査法人系ファームからのスポーツビジネスへの挑戦

当「Interview」は志を持ち活動する方、とことん何かに打ち込む方、インタビューを通じ、そんな魅力あふれる公認会計士のストーリーに迫ります。

さて、第4回目は、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎さんです。里崎さんは社内のトーマツイノベーションアワードという新規事業企画のイベントで大賞を受賞したことをきっかけに、スポーツビジネス事業(スポーツビジネスグループ(SBG))を正式に立ち上げました。どのような思いで業務に取り組んできたのか、そして、今までをどう振り返り、今後どのようなビジョンを描いているのか、お伺いしました。インタビュアーは宮本・横山(以下、青年部)でお送り致します。

 

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会計士になったきっかけについて教えてください。

本音のところでいうと、親に対して申し訳ない気持ちからです。東京の国立大学に行くつもりでいたのが、結果として最もお金のかかる地方の私立大学に進学することになってしまったので、何かを成し遂げてからでないと地元に戻れない、親に対して顔向けできないという想いがあったんですよね。

しかもその原因が、浪人時代に悪友に恵まれてしまって、遊んでばかりでいた結果だったので、なおさら親に対する申し訳なさがずっと心の中にありました。

ですので、大学では一応専門科目だけはきちんと学ぼうということで、ミクロ経済学やマクロ経済学だけはがっつり学んでいました。ですので、それを活かせる資格を探してみたところ公認会計士試験があったため、そこを目指すことにしました。晴れて合格した後に東京に戻り、監査法人トーマツに入社することとなりました。

監査法人でいわゆる会計監査を7年ほど経験したのですが、その後に、DTFAS(現DTFA、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)に転籍しました。

そこで企業再生業務を2-3年経験したのちに、同社内の非営利法人のコンサルティング業務にシフトしました。そこで2014年6月に、社内のトーマツイノベーションアワードという新規事業企画のイベントで大賞を受賞したことをきっかけに新規事業の事業性調査を実施することとなり、2015年4月からデロイト トーマツ グループ公認のスポーツビジネスグループ(SBG)を正式に立ち上げることができ、現在に至ります。

 

今までで一番苦しかった経験は何ですか?

監査法人からDTFAの企業再生部署に転籍した後が一番苦しかったかもしれないですね。

監査法人での7年間はそれなりに順調でした。普通に仕事こなせていた感覚もありましたし、毎年自分の仕事が効率化されている感覚がありましたが、DTFAへの転籍後、いかに自分自身が監査以外のことを何もわかっていないか、ノウハウがないかに気づかされました。マニュアルがなく、考えないとできない仕事ばかりの中、ポジションだけはマネージャーに上がってしまい、成果が伴ってこない。もがき苦しんでいた中で、非営利法人のコンサルティング業務からの誘いは当時の自分にとって救いでした。(異動後から立ち上げまでの経緯は後述)

 

今までで一番覚悟が必要だった決断とは何でしょうか?

スポーツビジネスグループ立ち上げ時、30人くらいのデロイト トーマツのボードメンバーに対するプレゼンが最も覚悟が必要でしたね。というのも発起人としてデロイト トーマツグループでオフィシャルにビジネスをやるということは、会社の資金、人材などのリソースを使ってやらせてもらうことへの決断ですし、かなりの責任と覚悟が必要だったからです。

このビジネス提案がDeloitteで役立つのかどうかの問いに対して、正直やってみないとわからない部分がありつつも、YESと言い切る覚悟を常に持っていなければなりませんでした。

 

~以下、立ち上げに至る経緯~

スポーツビジネスに興味を持ったそもそものきっかけは、私が高校1年の時に開幕したJリーグの存在が大きいです

日本中がJリーグブームに沸きあがり、自分の高校のある最寄駅を含め試合の日には街中で発煙筒がたかれているような熱狂ぶりでした。町中にクラブの旗があふれ、いやおうなしにJリーグに関心をもつようになりました。当時は近くのマンションの屋上からスタジアムを覗いてみたりしていました。本当はダメなんですけどね(笑)。

Jリーグ発足当時は全国でも10クラブしかなかったプロクラブが身近にあったため、自然と興味を持つようになり、それ以来ずっとJリーグには興味がありました。

しかし、気づけば、大学を卒業し、会計士の資格をとって、監査法人トーマツにいました。当時は何が何でもスポーツでビジネスをしたいとまでは思っていませんでしたが、週末にスタジアムでサッカー観戦をしていると、どこかでビジネスとして絡めればなという漠然とした想いを感じていました。

監査法人で7年間監査を経験後、DTFAに転籍し、企業再生の仕事をする中で、「そう言えば、Jリーグクラブは赤字企業が多い」ということに気付いたんです。そこでクラブに役立つことをと思い、営業活動でクラブを回りましたが思うようにいきませんでした。

うまくいかなかった理由はいくつかありますが、大きかったのは、広告代理店や個人レベルでコンサルティングを手掛ける人たちが、手弁当に近い形でコンサルティング業務を請け負うような業界風土があったことです。つまり、お金を払ってまでコンサルを受けるような文化や土壌、加えてそもそも財力が、今もそうかもしれませんが、当時のクラブにはなかったように思います。ファームがビジネスとして契約できるような環境がないことに気づかされた瞬間でしたね。

一方そこで知ったのは、クラブ側もそういった協力者と一緒に、少ない人材リソースの中、非常に真面目に多くのタスクをこなしているという実態でした。そこで感じたことは、個人や手弁当でコンサルをやるだけではビジネスの拡大には限界があり、継続的なバリューにつながりにくく、仮にバリューにつながったとしてもあくまで「点」での活動で終わってしまうということです

それを何とかできないものかと社内を見てみると、スポーツ関連ビジネスをやりたいという想いを持った人や、個人ベースで実際の支援をしている人等が意外と多く存在することも知ったんです。

私は入社後に知ったのですが、DeloitteはUKでスポーツビジネスの専門チームを持っている非常に珍しいファームであり、UKが発行するレポートは欧州で非常に高い認知度と評価を得ていることが分かりました。そこから、「オールデロイト トーマツ(監査法人、DTFA、DTC(コンサルティング)、TAX(税理士法人))の活動として『点』ではなく『面』で何とかできないか。」という想いがうまれました

その後、個人的なビジネスパーソンとしてのバリューをなかなか出せないまま、企業再生の部署で苦しんでいる中で、会社内で非営利法人のコンサルティング業務への協力の誘いがあり、徐々にそちらに軸足を移すようになったのですが、実はそれがスポーツビジネスへの転機となりました。

たまたまそこで、最初のスポーツ案件に携わることになるんですね。NPB(日本野球機構)のガバナンス体制の再構築案件です。当時は統一球問題、飛びすぎるボールが世間を騒がせていて、「統一球問題における有識者による第三者調査・検証委員会」が設置されていたんです。2013年のことですね。

NPBは当時それを受けガバナンス体制の見直しを実施する必要に迫られており、非営利法人のガバナンスを理解している外部専門家を探していたんです。たまたま非営利法人コンサルをメインフィールドにしていた私は、当該プロジェクトをDeloitteでお手伝いすることになった際に自ら手を挙げてインチャージを務めさせてもらいました。これが私の中のスポーツ案件第一号です。

私がNPBの案件に携わることができたのは、異動後もことあるごとに上司に対して、スポーツ関連の仕事がしたいと訴えてきたこともあると思います。その結果、案件がきた時に、社内のスクリーニングで選出されたんだと思います。言葉に出していると、どこかでつながってくるんですね

またこの案件の成果物として株式会社NPBエンタープライズ(侍ジャパンの興行を手掛ける会社)の設立につながって、まさにDTFAのサービスのど真ん中であるカーブアウト案件にもつながりました。

また、この案件とちょうど同時期に先ほど述べました、トーマツイノベーションアワードのタイミングが重なったんですね。何とか「面」での取り組みにできないか。という想いもあり、Deloitteとしてスポーツビジネスを進めるにはこのタイミングだと感じ、実行に移しました。

そういう偶然の追い風もあっての、トーマツイノベーションアワードへのエントリー→大賞受賞→ボードメンバーへのプレゼン→SBG立ち上げ、とつながったんですね。

 

Deloitteがスポーツビジネスに関与することの意義は何ですか?

私が実行に際して最も重要視したのは、グループとしてスポーツビジネス事業をやることの意義づけです。

端的に言えば、「スポーツビジネスマーケットの創出に寄与することをDeloitteのレガシーとする」ということだと考えています。

実際に、デロイト トーマツ グループには、様々なソリューションや優秀な人材が数多くおり、それぞれの得意分野を生かせば、日本に新たなビジネスマーケットを創出するという壮大なプロジェクトに貢献できる領域はたくさんあると思っています。そのためには法人内に点在する「スポーツにかかわりたい人」を束ねるハコがどうしても必要だったんです。

自分がプレイヤーとして何かするというよりは、そういうハコ、プラットフォームをデロイト トーマツ内に作ることこそが、唯一自分にできることであり、自分自身の存在意義だと勝手に思っています

また、Deloitteだけでなく、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社関与する際の強みとして、我々が(業務特性上も)中立的(第三者的)な立場を基本とする稀有な存在であることが挙げられると考えています。

リーグのビジネス化、スタジアム・アリーナ改革の推進(合意形成、収支計画、資金調達、PMO、等)などは通常多くの利害関係者が存在するため、中立的な立場で推進できる組織って実はかなり少ないんですよ。その点、監査法人系のファームのコメントは客観的なコメントとして受け入れられやすいんです。

ここからいえることは、監査法人という独立性、中立性はビジネスをするうえで弱みになる部分でもあるのですが、逆に強みとして活かすことができるということです。発想の転換で弱みが強みに変わる一例だと思います。

もちろん、最低限の採算性も必要ですし、業界慣行を変えていくこともチャレンジ・使命だと考えています。ただそのためにはしっかりとしたバリューが絶対的に必要です。Deloitteでしか対応できない領域でバリューと成果を出していかないと、スポーツビジネス界はいつまでたってもフィーを払うという体質になりませんし、ビジネスとして大きくならないと思います。そのため我々としてはまず、ビジネスプラットフォームを整備し得るリーグや協会ときちんとアライアンスを組んで、面としてのビジネスインフラを整えることを支援していきたいと考えています.

 

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現在やっていて一番楽しいことについて教えてください。

やはり自分がやってみたいと思っていたスポーツに関する仕事がやれていることですよね。

スポーツビジネスをやりたい人たちが、実際にスポーツビジネスをやれる環境ができあがりつつあることも嬉しいです。自分が見てきたJリーグに対して、自分の想い等を伝えられる機会も少しずつ増えてきていますし、今後も様々なことに貢献していきたいですね。

 

普段心がけていることについて教えてください。

三方良しの関係を築けているかを常に考えています

自分と相手と全体がすべて利益になるようにバランスをとれる選択をしていれば、仮に紆余曲折があっても結果的にいい方向に行くと考えています。これが偏った時に問題が起きると思うので、自分の中ではすごく大事だと思いますね。

 

究極的な夢・希望 & 今、挑戦していることについて教えてください。

Deloitteのような大きな会計事務所系ファームしかり、個人で動いているコンサルの方々まで含めて、スポーツビジネスの世界において「普通にビジネスができる」仕組み・土壌を作りたいです。

従来からスポーツ界で活動されている個人を含む小規模なコンサルの方々は、機動力、局地戦に強く実地で積み上げて来られた独自のノウハウ・ソリューションを豊富にお持ちです。Deloitteだとコストがかかりすぎてできないような分野は、彼らに任せるべきで、棲み分けが可能と考えています。それぞれの強みを活かしながら協業していくための土壌、基盤をつくることに貢献することが、現時点での我々の役割かなと思っています。

そして、スポーツビジネス界にもビジネスマインドを根付かせ、内外を問わず様々な業務等につき、適正報酬を払ってもらえるような環境にしていきたいです

クラブの選手だけでなく、フロントスタッフに対しても、もっとお金が回るようにするべきだと思います

今は、例えば他の業界からクラブに転職しようとすると給料が激減してしまうほど、スポーツ界の報酬水準は低いのが現状です。これでは、中に入ってやりたい人が経済的な理由で断念せざるを得なかったり、個人的な財力が続く限り身を粉にして働くしかなくなり、いずれ燃え尽きてしまうといったようなことが起こってしまいます。

実際、Jリーグ一つとっても英国のプレミアリーグや米国のメジャーリーグサッカーに比べてスポーツビジネスのマーケットは小さいし、伸びていません。まだまだ伸ばせる余地は多分にあると思いますよ。そして、スポーツの世界で働きたい人がスポーツの世界に飛び込んで行ける土壌をつくり、例えば入りたい企業ランキングに常にどこかのクラブチームが入ってくるような世の中にしたいですよね

そのためには誰かが、しっかりスポーツ界にお金が流れる仕組みを作るパラダイムシフトを起こす必要があります。

スポーツ界はどうしても、「夢を追って素敵」でごまかされてしまう面もあるので、きちんとバリューを出せる人が適材適所に入れる仕組みを作らないといけないと思います。Deloitteの活動が、その一端を担えれば嬉しいというのが個人的な想いです。

さらに、スポーツというコンテンツを様々な課題解決のソリューションとして活用することが当たり前の世の中にしたい、という想いもあります

私は、スポーツが本来的に持つ「あらゆる事柄のハブとなる機能」こそがスポーツの最も重要な価値であり、その機能を有するからこそ、課題解決のソリューションになり得るのではないかと考えています。

企業の抱える課題や業界の抱える課題だけでなく、個人が抱える課題や社会の抱える課題まで、スポーツの持つ様々なものを繋いでしまうハブ機能によって解決できるものが多々あると思います。公認会計士の業界が抱えている課題をスポーツで解決しようとする青年部の取り組みも非常に意義があるものだと思いますよ

まさにJリーグも「自分たちの活動を通じて社会課題の解決を」というテーマを明確に掲げています。東日本大震災の直後、東北エリアを拠点とするスポーツクラブの活躍が、どれだけ現地の人々に生きる活力を与えたかを考えれば、スポーツの価値は単なる広告宣伝効果だけではないことが分かります。人格形成や健康維持、地域活性化やコミュニティ形成、一体感の醸成や非日常体験等、スポーツコンテンツを活用することで改善できることは広範に及びます。万人がその価値を認める世の中になれば、人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることができると信じています。

 

若手会計士へのメッセージをお願いします。

会計士は独立事業主なので、いちサラリーマンで終わらせるのはもったいないと個人的には思います。自分にしか出せないバリューを常に考えることが大切ではないでしょうか

若いころからその点を意識して行動していれば、いつかどこかで結果につながると思います。私の先輩からの受け売りですが、最悪会社で失敗しても、個人で仕事ができるだけのスキルを身に付けることが必要だと思います。会社という看板がなかったとしても胸張って言える自分の存在価値を確立することが必要なんでしょうね。

自分は何がしたいのかという意識を常に持つということ。そこに自分をもっていくように、普段からの心構えと行動をし続けることが大事だと、入社したての頃の自分に言うなら、そういう話をしてあげたいです。

 

これから会計士に求められる役割とは何でしょうか。

会計士が置かれている特殊な状況を理解し、生かしていくべきでしょう。会計士は社会に対しての大きな影響力を発揮できる存在ですし、経済活性化の土台を担っています。

今、社会で問題となっていることって、いずれも会計士が絡む領域ですし、目立たないけど絶対に必要な存在なんです。そういう意識を一人一人が持つべきだと思うんですよね。もちろん監査業務は経済活動を前提としている現在の世の中においては絶対に重要で、そこは議論の余地がないんですが、周辺のフロンティアも大きいので、監査に閉じすぎないことを意識してやっていくべきだと個人的には思います。

つい最近、DeloitteからJリーグのレポートをリリースさせていただきました。

私は、こういったレポートをDeloitteのようなファームが出す意義、レポートを出すことで社会にどんな影響を及ぼすことができるかを考えてやっています。

このレポートをきっかけに、このような形でスポーツに関われることに興味を持つ人が出てくるかもしれないですし、Jリーグを違った目線で見るきっかけになってもらえたり、Deloitte、ひいては公認会計士としてスポーツへの関わり方を知ってもらうきっかけにもなると思います。

会計士だからこそできる価値提供を意識してやっていくことが重要です。