インタビュー

五十嵐 剛志さん インタビュー

2016.09.10

社会課題解決先進国へ、お金の流れを変えてゆく

会計士として多忙な毎日を繰り返し過ごすなかで、目の前の仕事を片付けるためにとりあえず働く、なんか違和感があるけどなんとなく働く、自分は本当にこれでよかったのだろうか、そんな感情に答えを見出せずモヤモヤしたことはないだろうか?今回は、会計士としてのアイデンティティを確立しながら、働く意義や没頭できるものを見つけて生き生きと働く会計士、五十嵐剛志さん(以下、五十嵐)にインタビューを行った。インタビュアーは、青年部の米田惠美さん(以下、米田)。

米田:まずは、簡単に自己紹介(会計士受験〜現在まで)をお願いします。

五十嵐:高校3年生のとき、会計士の国見先生の講演を聞いて、会計士ってかっこいいなぁという憧れを抱き、会計士になりたいと思って慶應義塾大学の経済学部に進学しました。受験勉強に専念し、2009年に合格、その後、PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwC)に入所。よりクライアントに寄り添った仕事がしたいという想いから、監査ではなくアドバイザリーを選択し、金融業を中心とした財務報告アドバイザリー業務に従事しました。また、仕事とは別に、個人としてTeach For Japan(以下、TFJ)という認定NPO法人でプロボノ活動(専門性を活かした社会貢献活動)をしていたのですが、そこでの活動に没頭し、PwCの上司に相談し、TFJへ2年間出向し、組織としてプロボノ活動を行いました。その後、さらに社会的企業に対する資金面・経営面での支援を行うソーシャル・インベストメント・パートナーズへも出向しました。現在はPwCへ帰任し、企業の持続的な価値創造プロセスを伝える統合報告アドバイザリー業務などにも従事しています。

五十嵐様

米田:プロボノ活動は個人として行うものという印象が強いですが、組織としてプロボノ活動に取り組むのは新しいですね。PwCに入所した時から、いつかはプロボノ活動をしたいと思っていたのですか?

五十嵐:いいえ。詳細は省略しますが、からだが動かなくなるぐらい体調を崩した時期があったんです。からだが自由に動かなくなったときに、人や社会に対して何の貢献もしてこなかったという後悔の念に駆られました。あぁ、もっと人のためになることをしておけばよかった…と。

時の経過とともに運良く体調も回復し、それから、自分がなにか貢献できる場所が見つかるのではないかと思いNPOが主催する色々なセミナーに足を運ぶようになりました。本当にたくさんのNPOの話を聞いたのですが、「生まれた地域環境や家庭環境にかかわらず、すべての子どもたちに質の高い教育を提供する」というTFJのビジョンが自分の価値観にヒットして、「何か出来る事はないですか?トイレ掃除でもなんでもやります!」と代表のところに行ったんです。代表に「五十嵐さんの好きなこと、得意なことは何ですか?」と聞かれ、「会計が得意です。」と答えたら、「ちょうど会計で困っているから助けてほしい。」と。そこから、個人として、週末はプロボノ活動を行うようになりました。

米田:週末プロボノとして活動する選択肢もあったなか、組織として(出向して)プロボノ活動をしようと思ったのは何故ですか?

五十嵐:TFJでプロボノ活動をしていくうちに、会計で困っているというのはTFJだけの課題ではない、他の団体も同じように困っていると気付いたんです。困っている(ニーズがある)のに十分な報酬が得られないからビジネスとして参入できないという現実。とても重要な構造的な問題だと思いました。その構造的な問題を現場にフルコミットして解決していきたい。まずは自分の出来るところからと思い、PwCの部門長、人事、そしてCEOに直談判しに行きました。十分な報酬が得られなくともPwC(組織)でプロボノ活動をする意義を整理して伝えると、無報酬での活動を即決してくださいました。PwC は”Build trust in society and solve important problems”というPurpose(存在意義)を掲げていますが、プロボノ活動はまさにこのPurposeに合致するものだったのだと思います。

五十嵐さん②

米田:自分のやりたいことが出来ないから組織を離れるのではなく、自分のやりたいことを実現できる新しい仕組みをゼロから作りだす姿勢は重要ですよね。CEOを即決させた一番の要因は何だと思いますか?

五十嵐:最終的には、「熱量」だったのだと思います。この出来事が社内報に掲載され、「社内では反対意見もあった。けれども、最終的には五十嵐さんの情熱が勝った。」と書かれていました。嬉しかったですね。

米田:今もお話を聞いていると、すごい情熱が伝わってきます。人が何かに没頭し続けられる、情熱を絶やさずいられる理由はなんだと思いますか?

五十嵐:原体験、環境、仲間、使命感とかいくつかあると思います。TFJでは、特に代表の熱量が大きいので、情熱が伝播します。また、責任感や義務感ではなく使命感を抱くようになった人は強いと思います。

米田:では、五十嵐さんの使命、成し遂げていきたいことは何ですか?

五十嵐:より良い社会をつくっていくために、お金の流れを変えることです。いくら財務的利益を生んだかということではなく、どれだけ社会に対して社会的な利益を生み出したのか、どれだけ社会課題を解決することができたのかという点を活動の成果と捉える。この社会的インパクトを測定、評価、管理、そして開示し、社会的インパクトを基準に経営や投資の意思決定ができる社会を創る。これにより、善意だけに頼らない、新しいお金の流れが生まれると考えています。そのためには、資金の受け手(社会的企業)の育成・支援、資金仲介プラットフォーム、資金の出し手(社会的投資家)に対する税制優遇等の整備、エコシステム形成などが必要です。

この社会的投資の市場においても、公認会計士だからこそ発揮できる強みがあると思います。それは、独立性、信頼性です。何物にも屈しないメンタリティを保持し、公益のために動ける、市場をつくるキーパーソンになり得ると思っています。

五十嵐さん③

米田:すごい大きなビジョンを持っていますね。

五十嵐:いいえ、そんなことはないですよ。このあいだ、合宿をしたんです。自分のビジョン、ミッション、theory of changeは何かを考えようみたいな合宿です。そこで、自分を1つの社会的企業と捉えたときに、どんなビジョンを持つか?ということを考えたのですが、そんなにたいした事は望んでない。自分と自分の家族が幸せでいられれば良い、ただそれだけ。そのためにいろんなことが必要なんです。自分と自分の家族が幸せでいられる社会を創る、その過程で他の人々の幸福度もあがっている状態をもたらすことができたら嬉しいですね。

米田:その根本思想は人類共通かもしれないですね。共通の根本思想のもとで、各々がアイデンティティを確立しながらより良い社会を目指して行動すれば、どんどん良い方向へ人も社会も変わっていけるでしょうね。そんな想いを持つ五十嵐さんは、私たち若手の会計士はどんな風になっていったら良いと思いますか?

五十嵐:現実問題として、業界の中には、なんかモヤモヤした気持ちで働いている人もいると思います。そこを打破するには、経験とかきっかけが重要だと思います。手段は何でも良いと思うんです。僕の場合は、それがプロボノ活動だっただけで。会計士としての社会的意義を見出し、感化され、生き生きと働く人が増えていったらいいなと思います。たまに、会計士試験の合格がゴールになってしまっている人を見かけたりもします。それではもったいない。もちろん、マズローの欲求階層説でいうところの、自己実現以下の基礎的な欲求が満たされていることが重要ですけど、会計士の場合はそこが満たされていることが多いと思います。優秀な人たちのチャレンジ精神、若い世代の情熱をプロボノ活動に向けてもらって、一緒により良い社会を創っていけたら嬉しいですね。

米田:私たち会計士は社会に存在する課題に対していかに当事者意識を持って解決に努めていくのかが重要ですよね。

五十嵐:そうですね。たとえば、人の痛みを自分の痛みとして感じることができるか、人の置かれた状況に自分もいると仮定して想像したときに同じ感情を抱けるか、それが当事者意識を持つということだと思います。同情ではなく共感。会計士の中には、自分が一生懸命努力したから今があるという誇りが強いがゆえに自己責任論を唱える人も多い気がします。でもそれは自分たちが恵まれた環境にいたからこそできたことであることが多い。会計士ってどこか冷徹だったり、ビジネスマインドに偏りがちだったり、そういう世間からのイメージってあると思うんです。立場としてそれが大事なこともあると思いますが、僕はもっとあたたかい心、ソーシャルマインドをも兼ね備えた会計士が増えていくことを信じて活動していきたいと思っています。そんな会計士が増えれば、日本はきっと社会課題先進国ではなく、社会課題解決先進国になると信じています。

米田:はい。青年部一同、心から応援しています!今日はありがとうございました。

自分の信念を強くもち、とても生き生きとお話される方でした。人としてのあたたかさがにじみ出ていて、これからの会計士業界には、五十嵐さんから影響を受けて変わっていく人がどんどん出てくるのだろうと感じました。会計士としてのアイデンティティを生かして、自分が本当に没頭できるもの、生き生きと輝ける場所をあなたは持っていますか?